文化・芸術

率直・誠実で気取りのない新しいタイプの二人の名女優

国民栄誉賞の受賞が決まった森光子さん。半世紀以上前のご当人の境遇を振り返れば、思いもつかなかったことに違いない。今日の帝劇(国立劇場かな?)での芝居のアンコールで深々と頭を下げ、「もっとよい芝居をめざす」「引退は考えてない」と凛とした口調で…

ひばり飛び去り20年、名作詞家逝く-“悲しい・・””哀愁・・”

石本美由起さんが逝った。近年、あの訥々とした情味溢れる語り口が聞かれなくなり、案じていたが・・。85歳だった。 美空ひばりが早世した89年、酷暑の7月、ボクは海外に滞在していたが、青山斎場での告別式の模様をビデオ録画しておいた。そのなかでで、石…

“与謝野源氏”、伏字を怖れなかった晶子女史

もう一年前になろうか、源氏物語の現代語訳を原典と照らしながら読もうと一念発起して、知友の国文学者にお勧めの訳本を尋ねてみた。『与謝野晶子訳が一番』と即答。 早速、角川文庫の上・中・下巻の中古本を手に入れた。 紫のかがやく花と日の光思ひあはざ…

人生に対する矜持を考える

今年、松本清張の生誕100年になるということもあり、清張の社会派推理モノで映画化されたり、TVドラマ化された作品が頻繁に再映されている。 ボク自身、70年代後半から90年代後半にかけて、清張作品を耽読した。多くは社会派推理や歴史もの現代史の裏面史モ…

原稿なしの挨拶で大丈夫?

一昔前になるが、幼稚園の卒園式に招かれ、予告なしに司会者から突然祝辞を指名されてびっくり。園長さんに「それはないでしょう」と腹を立てたがあとの祭り。ぶっつけ本番で、演壇の前に立ったものの前にいるのは6才の幼児たちだ。自分でも何を喋ったか思…

漫画大国ニッポンのあり方は・・?

昭和天皇が崩御し、美空ひばりが早世した1989年という年は多くの日本人にとって忘れられない年だろう。 この年、もう一人その道の大家が亡くなっている。漫画を“子供の読み物”から“日本文化を象徴する文化”に育て上げた手塚治虫が60歳で他界した。当時、彼は…

憲法の日に書物の友に囲まれて・・

憲法の日、シャレじゃないがまるで初夏の日に書架の整理に半日を過ごす。昨今のeconomy depression、financial crisisやswine fluに襲われ、例年加熱する憲法論議が嘘のように沈静化している感じだ。心なしか改憲反対国民が多くなったようだ。が、油断ならな…

(続)In Cold Blood「冷血」=“事実×小説”

In Cold Blood「冷血」の副題はA True Account of a Multiple Murder and its Consequences(一家皆殺しとその帰結の真相)とある。ノンフィクション・ノベルの真骨頂というべきだ。 著者Truman CapoteはAcknowledgements「感謝の言葉」の冒頭部で次のように語…

こんにちでは日常の風景となってしまった“In Cold Blood”

42年前、Truman CapoteのIn Cold Blood『冷血』の邦訳初版本を夢中で読了した。読後の衝撃が忘れられず、すぐに原書を買って読みだしたが、300頁以上に及ぶ長編でもあり、悪戦苦闘し読み終えるのに難儀した。 いま改めて、訳本に折り込まれていたチラシの梗…

話術を超えて“ハナシは人なり”

最近、人前で話す機会が増えた。ノンフィクション作家Kさんが某誌5月号に掲載したエッセイ『講演の名人になるには』が面白い。 ボクも雄弁・能弁ではなく、訥弁の方だが、お蔭でどうすればうまく話せるかを考えることが多い。 Kさんがエッセイにおいて徳川夢…

“まくら”は落語の“素粒子”

枕(まくら)は落語のイントロだが、小三治師匠ののま・く・らの右に出る噺家はまずいない。 「小三治さんのまくらは、ちょうど若い人向きのエッセイストの文章みたいな、ところと私の好きな、昔ながらの『江戸っ子』的美学みたいなものが、渾然一体となってい…

「なんもかもわやですわ、ニッポンの政治屋はん」

辛口で爽快な論評『なんもかもわやですわ、アメリカはん』の著者米谷ふみ子さん。生まれは大阪、1960年に渡米し、今もロス郊外で暮らしている芥川賞作家だが、日本がとても気になるようだ。 地元のケーブルTV, MSNBCのニュース番組に東洋人男性の朦朧とした…

小三治の噺の味をじっくりかみしめたい

家での夕食に時間をかけて楽しまなきゃと思っているものの、バタバタと済ましてしまうクセが抜けない。 小三治師匠が言っている。 「志ん朝さんとイタリアに旅行して、思ったのは『人はモノを食べることによって、幸せを感じてもいいんだ』ということでした…

“情けはひとのためにはならず”だって?--TVのナレーションやリポーターの日本語にご注意!

故江國滋さんが“ことばのくずかご”と題して「日本語に八ツ当り」している。 「日本の経済援助でエジプトに多目的ホールが完成して、こけらおとしに歌舞伎が上演されたというニュースのナレーション。 『中東初めての歌舞伎公演とあって、カイロの人たちにわ…

格好だけつけた偽敬語は不愉快-磨くべきは“心の言葉”

「敬意を示したいと思ったら、敬意を持つことのほうが大切で、格好だけをつけたような形骸化した敬語が溢れかえっている」 金田一京助さんのお孫さんの秀穂さんは「僕は祖父の京助からは、言葉とその裏にある真心や誠実さが大切だということを学んだ気がして…

経済的価値が崩れると伝統と云う名の“郷愁・懐旧”が頭をもたげる-警戒すべし

「伝承に創造を加えて伝統となる」と誰かが言っていた。なるほどと合点がいく言葉だが、辻井喬氏の≪新しい伝統観≫には覚醒させられた。 氏は“伝統は郷愁ではない”と次のように明解に語る。 「伝統は風土と気候に深く影響されながら、それによって決定される…

“待てアマゾン!”だと・・?

書物のネット販売ダントツのAmazonに対し、出版流通対策協議会が異議申し立て。書籍の安売りが目に余ると販売中止を求めるという。 定価1000円の新品と変わらぬ中古本が1円+送料で注文、翌日送られてくるので売れるはずだ。それでなくとも街の大手書店に出か…

potetialとcapability--開発可能な能力、まだ伸ばすことの出来る潜在力はどちら?

ポテンシャル(potential)というカタカナ語をよく耳にする。大概、「成長」「発展」「開発」といった前向きの概念に結びつき、好ましい可能性、好結果をもたらすことが予想される潜在力を表わすケースが大半だ。が、potentialは上のような名詞の意味もあるが…

乱れ、荒らされている日本語-使い方が難しい

早いものでもう20年前になるが、ソウル五輪の体操TV中継でNHK某アナウンサーが『ソウル・オリンピックで引退を賭ける李寧選手です』ときた。 ≪引退を賭ける≫とは何ぞや。うっかり聞き逃しそうだったが、こいつははおかしい。“再起を賭ける”ならわかる。引退…

(続)いつまでも向き合わなければならない言葉

加藤周一氏著【常識と非常識】(かもがわ出版)を再読。 その≪前口上≫が胸に突き刺さる。 「シャンソン歌手の石井好子さんが語っていた。地雷で片足を失ったカンボジアの少年が『希望は』と聞かれ、『もう一本の足を失わないこと』と答え、石井さんは胸を突か…

加藤周一さんとお別れしても≪再読しいつまでも向き合わなければならないそれらの言葉≫

昨年暮れ他界した加藤周一氏の「お別れの会」が昨日都内で開かれた。約1000人が戦後を代表する知識人《知の巨人》をしのんだ。 弔辞のなかで大江健三郎氏は『(自分の)死まで再読するものとして加藤周一の著作と向き合っている」と述べた。また作家の水村早苗…

哲学の定義はあるの?

近頃、大学で心理学を学ぶ人が増えている。いまのご時世からみればうなづけるが、哲学となるとどうか。 大学時代ボクは美学が好きだった。美学は別名“芸術哲学”とも呼ばれた。でも、哲学は履修したものの興味を持てなかった。 Maxim Gorky(マクシム・ゴーリ…

「映像翻訳」講座って何のこと?-レッスン5ヶ月で放送翻訳のプロになれるって・・!?

映像翻訳者とかメディア・トランスレーターなどと称する仕事は、昔なら字幕スーパーやアテレコ翻訳者のことだろう。この種のプロを養成すべく、春期生の募集広告が日本の英字紙にデカデカと出ている。 キャッチフレーズは「あなたの語学力を活かすもう一つの…

史実の謎解き--時代モノの“想像”にも許容範囲を守るエチケットがある

NHK大河ドラマが始まると、主人公に関する書物が次々と出る。特にヒットするとそうだ。「篤姫」もそうだったが、今年の大河「天地人」も放映に合せて、直江兼続を題材にした新書、文庫本、単行本の出版が続く。 が、兼続だが、上杉謙信の影に隠れ、日本史に…

いまチャップリンがいれば・・・(続)「名画座」

1970年代半ばの1時期、高校の正課に「必修クラブ」があった。それぞれの教師がいろんな講座を開講、ボク自身『映画教室』を開講した。20名ほどの生徒が受講。日本映画史の流れを勉強しながら、ほぼ月1回名画の16mmフィルムを借りて映した。 当時、チャップリ…

街に名画座が出来ないものか・・・

我が家の近くの“小劇場”とやらで名画の鑑賞会をやるという。 こんなビラが新聞に折り込まれてきた。 「戦国時代の貧しい農村を舞台に、野盗と化した野武士に立ち向かうべく農民に雇われた侍たちの闘いを描いた作品。・・・監督による日本映画の傑作。麦の刈…

今年ももうあと一週間と残っていない

芥川龍之介に「年末の一日」という作がある。10枚にも満たない小品だ。 1923年、関東大震災で焼け出され、日暮里に転居。短い期間だが、田端に移ってきた芥川と交友を深めた久保田万太郎がその作品の筋書きを記している。 「年末、ある新聞社の人を案内して…

亡命と“脱国”

日本という国は亡命には馴染まない国のようだ。 あの15年戦争時、ナチス・ドイツと軍国日本との決定的な違いは、日本では知識人の亡命が極めて稀だったことだ。ここでいう亡命とは「自国の(政治)体制を恐れ、忌避して他国に(政治的理由で)逃げること」を言う…

台詞の洪水

本日も私事を記す。 今年最後の文学座の公演を観にいった。12月の「アトリエの会」の芝居だが、信濃町のアトリエは改装中なのか、今回は吉祥寺シアターに出向いた。武蔵野文化事業団が3年前に立ち上げた近代的小ホールだ。信濃町のアトリエを一回り大きくし…

“えらい人“とは・・?

ボクが小学校に入学して間もない1948年6月祖父が亡くなった。65歳だった。呉服商をやっていたがデパートが進出して立ち行かなくなった。商家は没落し、商号だけが今も残っている。 息を引き取る何日か前に、小1のボクを枕元に呼んで呟いた一言を今もって覚…