加藤周一さんとお別れしても≪再読しいつまでも向き合わなければならないそれらの言葉≫

昨年暮れ他界した加藤周一氏の「お別れの会」が昨日都内で開かれた。約1000人が戦後を代表する知識人《知の巨人》をしのんだ。

弔辞のなかで大江健三郎氏は『(自分の)死まで再読するものとして加藤周一の著作と向き合っている」と述べた。また作家の水村早苗さんは『近代日本の一時期が可能にした知識人のあり方が、加藤さんの死で終わった』と。そして、音楽評論家の吉田秀和氏はユーモラスな一面を持ち合わせていた加藤さんの評論の魅力に触れた。
加藤周一のユーモアは鋭く、的を射ている。
Q:日本人の礼儀正しさについてどう思いますか?
A:『礼儀正しさというのはとても興味深い現象です。それは調和
 を保ったり、集団内の争いが招く結果を予防したりするのに最
 も有効な手段の一つなのです。ところが、ある集団における礼
 儀正しさについてのいろいろな決めごとは、他の集団のメン
 バーに対しては、同じように当てはめられません。そして、そ
 のことが極端に無礼な行動の原因ともなるのです。・・』
Q:日本の市民であるとはどういうことでしょう?
A:『地下鉄で眠ること! ニューヨークじゃこれはもう戦争だ。誰
 も地下鉄で眠ったりしない! 日本の市民であるということの利
 点とは、日常生活での安全を味わえるということです。確かに
 時には地震もあるけれど、毎日というわけではない。私にとっ
 ては、日本の市民であることの不愉快な面は、権力と市民が垂
 直の関係にあるということです。市民がいつも権力に服従して
 いるのではないとはいえ、政府に抗議したり、批判したり、抵
 抗したりする権利の必要を強く感じているわけではないので
 す。・・・日本人は日本の皇室と英国王室を比べることを好み
 ます。しかしイギリスでは、もし女王がヨットで旅行すると決
 めようものなら、まずもってメディアが、そんな旅行は飛行機
 で行くより100倍も金がかかると非難することでしょう。これは
 取るに足らないことですが、王室の予算が開け広げに批判され
 語られているわけです。私は、今まで日本の新聞が、皇室の旅
 行の最低予算を報じる記事を読んだことがありません』
Q:日本の政治の将来をどうご覧になりますか?
A:『明治以来、日本では権力の構造は根本的に変化しませんでし
 た。さしあたり、最も確実な手段というものは、もう一度米国
 に宣戦布告して、ただちに敗戦し、米国人に新たに占領しても
 らうことかも知れません。もし新しい米軍司令部が命令してく
 れれば、私たちは変わるのでしょうが!(笑)』(加藤周一『常識と非常識』)
度肝を抜かれるような仮定だが、新たに就任した米国最高司令官が(敗戦国)日本人に命令を下せば、手っ取り早く我が国政界の体たらくも一掃されるかもしれない。