文化・芸術

名匠の新作はもう出ない

藤沢周平さんが鬼籍に入って早や17年になる。時代モノ作家として知られてはいたが、ロングセラーを連発する人気作家だったというわけではない。 1973年(昭和48年)46歳で直木賞を受賞。結核で長い療養生活のあと業界紙での仕事を経ての遅咲きである。受賞作と…

「大人になったら何になろうかしら」−Sophia Loren意気軒昂

先日、「仏女優MoreauとDeneveお久しぶり」の挨拶記事を書いたところ、今度はItalyの大女優Sophia Lorenが来日した。イタリアン・リアリズム全盛時に銀幕を飾り現在76歳。高松宮殿下記念世界文化賞を受賞、高齢どころか堂々たる貫禄には圧倒される。 日本で…

誠実なフイルム−手造りの映画作法

黒澤明が他界して12年になる。今年が生誕100年である。 私見だが、クロサワ映画は1965年公開の『赤ひげ』で1つの大きな節目を迎えた。黒澤55歳のときの作品である。その4年後の69年、20世紀Foxとの合作映画『トラ トラ トラ』大作のメガホンを任されたクロサ…

クロサワが存在した意義

他界したのがつい昨日のように思える黒澤明監督だが、今年が生誕100年目になる。この17日〜年末まで、国立近代美術館フィルムセンター展示室で『生誕百年 映画監督 黒澤明』展が行なわれる。 昨日の≪週間ブックレビュー≫で「黒澤明を読む」を拝見した。 黒澤…

遠慮しながらも言うべきことはしかっかり言う人

昨日20日A紙連載の『定義集』の表題は≪井上さんが遺した批判≫。そのなかで大江健三郎氏は「(井上さんの)メモの脇には、この深夜、三度の目ざめがあったことも記されています。苦痛がなかったはずはありません。そうでなければ、私が息子にどのように和解を…

一葉礼賛−夏子は強かった

24歳で労咳により早世した樋口一葉。近代日本の女性職業作家として歴史に名を残した。本名は奈津。なつ子、夏子とも称する。 「女史の小説に就ては、たけくらべを読むまでは余り多く感服せなかった」と評した幸田露伴の一葉観が面白い。 ○故樋口一葉女史は一…

試されるのは、追悼文・弔辞の内容

4月に他界した井上ひさしさんの「お別れの会」が昨夕催された。 文学・演劇関係者ら1200人が参列した。遺影の前には、『遅筆堂』と自ら称した井上さんの全著作、約400冊が並べられた。 同じ東北生まれの作家、『挨拶はむずかしい』の丸谷才一氏が弔辞の中で…

“ま・く・ら”重ねて

柳家小三治師匠が今月25日に落語協会会長に就任する。まことに欣快である。 その小三治さんが明日、19日で100回目を迎える≪朝日名人会≫の歩みを語っている。 99年2月に始まった当≪名人会≫、第1回、第2回には古今亭志ん朝師匠が連続出演した。当時頂点を極め…

“Embracing Defeat”(敗北を抱きしめ)、Starting Over(最初からやり直し)たJapans(日本人たち)

この6月をもって、John W Dower(ジョン・ダワー)氏がMIT教授を退くことになっという。歴史家であり、米国きっての日本史研究者だ。 1999年に著したEmbracing Defeat「敗北を抱きしめて」でピューリッツァー賞を受賞した。翻訳本では上下巻の大書だ。 冷戦時代…

追悼試験

最近、惜しまれて早世、他界する作家や文化人が多い。弔辞は長くじゃないが、心に響く親友、知人の追悼文にお目にかかる反面、儀礼的な常套文も少なくない。 「或旧友へ送る手記」を遺し、“用意周到に”に35歳で自死した芥川龍之介は夫人と子どもあてに、そし…

“笑わせるひとたち”考

ボクの書架の片隅に60年代〜70年代に発刊された何種類かの季刊誌がある。多くは歴史・文学・芸術関係だがほとんど全てが長続きせず、廃刊されている。 その1つが『季刊藝術』。1967年春(昭和42年4月1日)に創刊された。毎刊定期購読したわけではないが、内容…

“故郷はつらい土地”なのか・・

藤沢周平記念館が鶴岡市(山形県)に完成した。 周平さんの文学・業績・人柄をふるさと荘内の知的風土、作品の土壌とともに紹介する記念館で、小説の「海坂藩」のモデルとなった荘内藩の鶴岡ケ城跡(公園)にオープンした。初日4月29日に1000名、五月連休も来館…

“文字芸術”--感情と意志をもつ書へと・・

今年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」の題字は書家紫舟さんの文字芸術だ。≪書≫の既成概念を超越している。 このところ「書道」を題材とした映画やドラマの公開が相次いでいる。書道の甲子園と云われる全国大会や国際書道展など注目されているが、それでも書道人口…

重宝な書を頂戴いたし、有難きしあわせ、かたじけのうございます

先日、某大学の学長・理事長に思いもかけない貴重な書籍を戴いた。 フィレンツェ・京都・ダンテ『神曲』などのタイトルに目を惹かれた。奇しくも、学長先生と話題が一致した。しかも、この先生の生まれが荘内藩の鶴岡だというから、ボクも黙っていられない。…

「遊び心」と「社会をえぐる」戦士

小林多喜二の『蟹工船』が二年前から爆発的に売れ、ロングセラーを続けている。多くのWorking Poorが存在する今の時代を照射する作品というべきだろう。それだけに、喜ばしい現象ではない。 小林多喜二の最後は悲惨だ。築地署に連行され、あっという間に絶命…

心ならずも・・・

文学座で装いも新たに「女の一生」が上演される。“装いも新たに”とは長く杉村春子さんが演じてきた布引けいに新進女優を抜擢し、江守徹氏がはじめて演出するからだ。 江守氏はいまや文学座になくてはならない看板役者でもあり翻訳・演出を手がけるやり手だ。…

多摩は残雪、信州信濃は二三尺・・

江戸の俳人のなかでなぜか子供の頃から一茶に親しみを抱いた来た。 小4のとき、学芸会で担任の先生書き下ろしの「一茶」の劇に出た。主役の一茶を演じ、次の一句を節をつけて唄い好評を得た。 我と来て遊べや親のない雀 以来、一茶の中に、善良な眼を持ち、…

「寝太郎」で目覚める

ボクが高校時代、演劇好きになったきっかけは文化祭のとき、たまたまクラスで木下順二の民話劇に引っ張り出されたからだ。半世紀以上も前のことだ。 出し物は「三年寝太郎」だった。とぼけた楽しい芝居だったが、今思えば、内容は意味深いものがある。 職業…

旧き優れた古典モノ

早や今日で一月も晦日だ。 今年は何故か新年から立て続けに芝居見物。近年にないことだ。 年明け早々、国立劇場で歌舞伎「通し狂言 旭輝黄金鯱」、数日後、高校生相手の演劇教室、Shakespeareのcomedy“The Merchant of Venice”を観劇。 Ant. In sooth, I kno…

名作の再演が名優の発掘につながれば・・

「女の一生」が江守徹の演出で再演される。文学座付属演劇研究所開設50周年記念公演である。主役布引けいに新人を抜擢。知る人ぞ知る杉村春子さんの新劇界で稀に見るレパートリーだ。森本薫のこの名作舞台に江守徹はいかに新たな生命を吹き込むか。見モノで…

“革命的”役者と走者---現代版人間機関車

新春恒例の大学箱根駅伝。往路の5区、最長区間23.4kmの山登りを昨年に引き続きブッチギリで制したToyo Univ.の柏原選手の走りっ振りを見て、≪人間機関車≫を思い出した。 68年以上昔(1952年)、ヘルシンキ五輪で5000m、10000mそしてマラソンの三冠王になったチ…

ふと気がつくと“集合的無意識”のなかに取り込まれていないか・・

少しは“知るを楽しむ”1年だったかと思う。 過日、NHK-E『知楽』で≪孤高の国民作家 松本清張≫を辻井嵩氏が語っていた。70年代〜80年代にかけ、清張モノを耽読したボクにしては見逃せない番組なので録画し何度も視聴している。 清張作品に共鳴している辻井喬…

歌舞伎--吉例顔見世と初春と“さよなら”と・・

四條川原町。大橋を渡り真っ直ぐ行くと八坂神社。その手前右に南座がでんと構えている。若い頃、新春の鴨川べりを家族と歩いて八坂神社に詣でた。 職人さんが、南座の正面のまねき看板を取り外す光景がいまも懐かしく思い出される。 南座の吉例顔見世興行も…

発句--“はじめに子規あり”か・・

昭和の俳壇に大きな影響を与えた石田波郷、「自分の一生は病んでばかりいる一生だった」と述懐。 今生は病む生なりき鳥頭(とりかぶと) 時世の句か、清瀬の結核病院で生涯を終えている。 70年代わが街に住んでいた時代小説の名手、藤沢周平さんは50年代結核を…

“濁った暗い半生(青春)”が培ったもの

松本清張生誕100年を記念してかつてドラマ化された社会派推理モノの名作をBS2が再映、清張の世界を回想している。 「自分のことは滅多に小説に書いていない」という清張だが、55才を越えたころから「自分がこれまで歩んできたあとをふり返ってみたい気もない…

敬愛しあう朋と友

「芥川竜之介書簡集」(岩波文庫)と併せて1953年再版の古書:恒藤恭「舊友芥川龍之介」(河出書房)を再読している。 昨年春、山梨県立文学館で「芥川龍之介の手紙---敬愛する友恒藤恭へ」が企画・開催された。 恒藤恭、旧姓、井川恭は芥川にとって一高生活以来…

季題・季語のない発句もいいが・・

いまなお賛否両論ある司馬史観だが、NHKで始まった「坂の上の雲」はかなりの視聴率を上げると思われる。 主人公の一人正岡子規をいかに描くかだ。子規といえば俳句だが、病床での最期の3句がなとんも言えない。 糸瓜(へちま)咲いて痰のつまりし仏かな 痰一斗…

Michael Moore(マイケル・ムーア)のお灸

ドキュメンタリー映画「華氏911」(Fahrenheit 9/11」でBush Administrationを痛烈に批判したMichael Moore(マイケル・ムーア)監督が“Capitalism: A Love Story”(邦題「キャピタリズム〜マネーは踊る〜」)の日本での公開に合わせて来日した。最後のドキュメン…

比類なきレターライター--芥川のモラリティ

芥川竜之介の「書簡集」をじっくり何度も読んでいる。 喋るように、歌うように、流れるような手紙だ。大半は自分を語り、相手との対話を重ねている。なかでも、家族への手紙は、芥川のモラリティとヒューモアが感じられ、類稀なるレターライターと云うべきだ…

「英雄史観・回顧史観」の危さ

NHKが司馬遼太郎の『坂の上の雲』を3年かがりで連ドラする。気がかりだ。 もう15年ほど前になるが、一時期司馬作品を結構読んだ。 いまも、大手書店の歴史書コーナーには司馬作品が他を圧倒している。が、ボクはいつのころからか司馬モノを全く読まなくなっ…