(続)In Cold Blood「冷血」=“事実×小説”

In Cold Blood「冷血」の副題はA True Account of a Multiple Murder and its Consequences(一家皆殺しとその帰結の真相)とある。ノンフィクション・ノベルの真骨頂というべきだ。
著者Truman CapoteはAcknowledgements「感謝の言葉」の冒頭部で次のように語っている。
All the material in this book not derived from my own observation is either taken from official records or is the result of interviews with the persons directly concerened, more often than not numerous interviews conducted over a considerable period of time.
「本書の中の材料で私自身の観察によらないものはすべて、公の記録から取ったか、もしくは、直接関係した人々とのインタヴィュー、むしろ相当長い期間にわたって行われた無数のインタビューの結果から生まれたものである」(龍口直太郎訳)

西川正身氏が本書に寄せた次の推薦のことばが的を射ている。
「『冷血』は、想像力の衰えた作家が、一時の解決策として試みたルポルタージュの作品ではけっしてない。『最高の創作技術を駆使するとき、ルポルタージュは芸術の域に近づくことができる』との確信から生まれた作品なので、あらゆる小説技法を使って客観的な事実の世界を扱ったところに、この作品の積極的な意図と新しさがある。従って、作家やジャーナリストはいうまでもなく、一般の読者に対しても、切実な問題を提起してくれるにちがいない」
66年に発表されたIn Cold Blood。著者42歳のときの作品である。想像力の衰えどころか、ノンフィクション・ノベルという新ジャンルを切り拓いた米文学不朽の作品であり、後世、古典名作として伝承されるでろう。
因みに、現代文学には同型のノベルが洪水のように書店に押し寄せているが、名作と呼べるものは稀有だ。