'米国外交のphrase−“hearts and minds'は邦訳は無理?

Vietnam Warが終わって35年になるが、その間ボクにとって気になり、なんとしても観たかった記録映画が“Hearts and Minds”。

Vietnam Warの実像に迫るこの作品は1975年アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したものの、米国では一般公開の是非について最高裁まで持ち込まれた。

75年4月5日のアカデミー賞授賞式も荒れた。
プロデューサーのBert Schneiderが受賞のあいさつでVietnam WarとAmericaの良心について語りはじめたところ、。司会を務めていたハリウッドの超右翼タカFrank Sinatraが「アカデミー賞に政治を持ち込むな」と抗議。それに対抗してShirley MacLaineが「映画は真実を見つめて平和に貢献しなければならない」と反論、満場の喝采を浴びたという。

日本では劇場公開が見送られ、75年9月に当時のNET(現TV朝日)で深夜放映されボク自身観ている。
いまなお生々しい印象が消えないが、1つはタイトル“Hearts and Minds”に惹かれたせいでもある。
この“hearts and minds”なるphraseは近年、米国が外交政策を進める上でのrhetoricとして“winning hearts and minds”がしばしば使われ、Barack Obamaも2009年モスクワでのスピーチのなかで“By mobilizing and organizing and changing people's hearts and minds, you then change the political landscape. ”(人々のhearts and mindsを動かしまとめ上げ変化させることによって政治的風景が変えられる)とhearts and mindsを織り込んでいる。
米国におけるこの概念は古く、19世紀の民主主義政治に端を発する。
Vietnam Warは1975年4月30日のサイゴン陥落、米軍撤退により停戦となった。“Hearts and Minds”は米軍の北爆停止の72年から2年をかけ、74年に製作を完了している。


ところでこの映画のタイトル“Hearts and Minds”はLyndon B. Johnson大統領の65年5月4日のスピーチの一節“the ultimate victory will depend on the hearts and minds of the people who actually live there”「(ベトナムでの)究極的な勝利は、実際にあちらで暮らしている人々(ベトナム人)のhearts and mindsにかかっているだろう」から来ている。
問題は“Hearts and Minds”の概念をどのように日本語に訳すかだ。
現在、都内で唯一公開している東京都写真美術館ホールに出かけた。ほとんど全編がこの戦争に係った主な人物のインタビューにより構成されている。それだけに重要なのが日本語の字幕スーパー。スクリーンに打たれるR. Johnson大統領の“hearts and minds”の訳語に注目した。翻訳者Tさんの邦訳は『(ベトナム人の)意欲と気質』。これには正直仰天した。誤訳とは言えぬものの迷訳だというべきだろう。
ジャーナリスト、Shana AlexanderはNews Week誌で≪(ベトナム人の)心≫と明訳している。ボクならば≪心と頭≫と訳す。言い換えれば≪知情意≫だろう。

当映画にはJFKをはじめ10人以上の関係者が登場しているが、最も頻繁に顔を出したの人物が2人いる。一人はがベトナム派遣軍最高司令官W. Westmoreland大将。50万を超す米軍を率いて“汚い戦争”を泥沼化に導いた。


もう一人は元国防総省顧問Daniel Ellsberg。あのPentagon Paperの暴露の立役者である。Pentagon Paperの作成をEllsbergに命じたのは、Vietnam Warを「マクナマラの戦争」と言わしめたR. McNamara国防長官だ。
が、同長官は72年代には顔を見せることは出来なかった。代わって、Ellsbergのひと言ひと言が傾聴に値する。同氏がコメント中思わず言葉に詰まり涙ぐんだのは戦争支持から反対の立場に転身し和平実現を主張、大統領選に立候補し遊説中、凶弾に倒れたRobert F. Kennedyの悲劇に話しが及んだときだった。



“Hearts and Minds”はVietnam Warの実態を暴露した反戦映画だと言われるとしても、政治的プロパガンダではない。
Michael Mooreは絶賛する−−
“Hearts and Minds is not only the best documentary I have ever seen, it may be the best movie ever”--Many of the cinematic technique used in Hearts and Minds are similar to Moore's 2004 documentary 'Fahrenheit 9/11'.

「Hearts and Mindsは私がこれまで見た最高のドキュメンタリーであるだけでなく、これまで製作された最高の映画だ!」
「私が映画を作ろうとカメラを手にしたのは、今も全く色あせることなく意義のある作品であり続けるこの映画を観たからだ」
マイケル・ムーアーはドキュメンタリー『華氏9/11』にHearts and Mindsの映画手法の多くを採りいれている。

今日見たHearts and Mindsの日本版VHSは廃盤になっている。米国版DVDを取り入れて何度も見る価値がある“作品”だ。