Obama's Nobel Remarksの核心は最後の締め括り部分にあり

President Obamaのノーベル平和賞受賞演説は35分に及んだ。同氏のスピーチにはたいがい大きな拍手と笑いがつきものだが、今度ばかりは“戦時の大統領”と自他共に認めるいわく付きの受賞だけに自身珍しく緊張し、スピーチの基調は“Hard Truth”。演説中ほとんど笑顔は見せず、会場は固唾を呑み厳粛なムードにに包まれていた。
授賞式のあと防弾ガラス付きのホテルのバルコニーからMichelle夫人とともに街頭の大勢の人々に手を振るObama氏、ホテルで開かれた晩餐会でリラックスし「演説を長くやり過ぎて疲れた」などと冗舌だったようだが、35分のスピーチ中に会場からの笑いは一度、拍手の場も三度程度だった。

本日の本邦A紙夕刊に全文訳が掲載され、うち六箇所英文原稿が併載されている。が、これまでBarack Obamaの名スピーチを読むと、ご本人の最も強調し、訴えたい理念の凝縮されている部分は演説の末尾にあると実感している。
終りに近い次の一節に会場から拍手が沸いた。
 Let us reach for the world that ought to be---that spark of the divine that still stirs within each of our souls
「あるべき世界を目ざそうではないか。我々の魂をなお揺り動かすあの神の輝きに到達しようではないか」
そしてObama氏は次のように、締め括りへと演説を導いてゆく。
“Somewhere today, in the here and now, in the world as it is, a soldier sees he's outgunned, but stands firm to keep the peace. Somewhere today, in this world, a young protester awaits the brutality of her government, but has the courage to march on. Somewhere today, a mother facing punishing poverty still takes the time to teach her child, scrapes together what few coins she has to send that child to school--because she believes that a cruel world still has a place for that child's dreams.”
”Let us live by their example. We can acknowledge that oppression will always be with us, and still strive for justice. We can admit the intractability of deprivation, and still strive for dignity. Clear-eyed, we can understand that there will be war, and still strive fro peace. We can do that--for that is the story of human progress; that's the hope of all the world; and at this moment of challenge, that must be our work here on Earth.”
「今日もどこかで、武器の数で圧倒的に不利な状態にあっても平和を保つために踏みとどまってる兵士がいる。今日もこの世界のどこかで、政府の残忍さを知りながら抗議のデモ行進をする勇気を持つ若い女性がいる。今日もどこかで、貧困に打ちのめされながらも、それでも自分の子どもに教える時間を作り、なけなしの小銭をはたいて学校に行かせる母親がいる。こんな残酷な世界にあっても、子どもが夢見る余地は残っていると信じたいるからだ」「そんな彼らを見習っていこうではないか。常に抑圧はあることは認めながらも、正義を追求することはできる。手に負えない欠乏があることを認めながらも、尊厳を追求することはできる。曇りなき目で見れば、これからも戦争があるだろうことを理解しつつ、平和を追求することはできる。我々にはできる。なぜなら、それこそが人間の進歩の物語であるからだ。それこそが全世界の希望だ。この挑戦の時、それそこそが、この地球で我々がやらなければならいない仕事なのだ」
まさに苦渋のAddressというべきだろうが、こんにちの世界のリーダーたる責任を感じさせる名文だ。
邦訳はA紙から転用したものだが、Barack Obamaの手になるFull Textの格調に匹敵する名訳にはなかなかはお目にかかれない。いわんや我が拙訳を記する勇気はない。