幼い頃読んだ古典児童文学の鮮烈な印象

最近、古典文学の新訳が流行っている。
J.R.Kipling(キプリング)のThe Jungle Book(ジャングル・ブック)が“All the Mougri Stories”(ニンゲンの子マウグリの物語り)のタイトルで新訳された。

ボクが10才のころ小学校の図書室で借りて読んだ海外の古典小説のなかで、最も印象深く今も鮮烈な情景を思い浮かべるのがこの「ジャングル・ブック」である。この本が、世界中の子どもたちに読み継がれる、児童文学の傑作中の傑作であることを知ったのは、大学時代の師Y先生の≪英文学の特性≫をテーマとした講義においてである。

フランス人の若者に感動を与えたキプリングの作品についてY先生が次のように述べている----「徹底的に英吉利的な作品が仏人の心を捉えたのは彼の慣用句に満ち生気溌剌たる文体と、他の作家のそれよりも遥かに血を湧かせるような彼の物語の強烈さである。それと共に、キプリングが英国の少年達に与えんとした“lessons of energy”『気力の教訓(おしえ)』が、仏国の少年達の胸奥に反響を喚び起した事も亦、別の理由である。・・・如何なる外国作家も、キプリング程、仏国青少年を魅了し、彼等の中なる率先の精神と、国家に対する自己犠牲の精神とを強化したものは無かった。これは彼等がこの英吉利作家の中に、祖国の文学の与え得ざるもを発見したためであると言えよう」
主人公Mougriの名前を小学生のボクは、確か“モーグリ”と読んだ記憶があるが、新訳では“マウグリ”となっているのも新しい試みだ。
Maugri以外に印象深い登場動物はニシキヘビのカーやヒョウのバーギラなどだ。

ところで、芥川龍之介がこの『ジャングル・ブック』について触れた手紙文がある。少年時代の芥川に、読書面など多くの影響を与えた広瀬雄先生に宛てた便りの冒頭の次の部分。広瀬先生は、芥川の府立三中在学時代の英語教師であり担任であった。
1909年3月6日付、芥川17才の時の先生への返書である。当時の本所区小泉町15番地から出している----。
「粛啓。御手紙難有奉踊致し候。『ジャングルブック』は嘗てその中のニ、三を土肥春曙氏の訳したるを読み(『少年世界』にて)幼き頭脳に小さき勇ましきモングースや狼の子なるモーグリーや椰子の緑葉のかげに眠れる水牛や甘き風と暖なる日光とに溢れたる熱帯の風物の鮮なる印象をうけしものに御座候。原作に接したきは山々に御座候へども目下の様子にては到底手におへなささうに候へばまずまずあきらめて・・」(岩波文庫:芥川竜之介書簡集より引用)

ボクも原作は読んでいない。
血湧き肉踊る、心ときめく海外の古典児童文学、騎士もの、海洋もの、冒険小説など、何でもいい。何時の時代においても、小学生に読むことを薦めたいものだ。