越境してきた作家-言葉の壁を超越し磨かれた日本語

22歳で初めて来日した中国生まれ楊逸さんが、在住22年で芥川賞を受賞した。初の非母国語の芥川賞作家の誕生は喜ばしいことだ。
日本語を実に見事にこなす欧米人など非日本人は少なくない。が、日本語で文学作品を書くとなると、外国人にとって想像以上に日本語の壁は厚い。楊逸さんの作品は前回も芥川賞候補になったが、受賞が見送られた。「日本語のレベルとしていかがなものか」という点が問題になったという。
今回は「きちんとしたレベルでより良い日本語で書かれていて芥川賞によりふさわしい」と審査員は高く評価をした。
「“文化の本質であるコトバ”はそれを身につけて表現しようとする人を差別しない」とリービー英雄さんは言う。
当の芥川龍之介は『文章の中にある言葉は辞書の中にある時よりも美しさを加えていなければならない』と述べ、時を超えて、国境を越え、作家を目指す者たちを励ましている。
その芥川が自らの≪文章≫について語っている。
『僕に「文章に凝りすぎる。さう凝るな』という友だちがある。僕は別段必要以上に凝った覚えはない。文章は何よりもはっきり書きたい。頭の中にあるものをはっきり文章に現したい。僕は只それだけを心がけてゐる・・・』
国境を越えてやって来た初の芥川賞作家の小説『時が滲む朝』。予め書評を読むことなく、その磨かれた文章と外からの視点を観照できればと思っている。