ハローワークはhello work?

このところ、公共職業安定所(職安)という言葉をあまり耳にしなくなった。それもそのはず、職安がいつの頃からかハローワークと呼ばれるようになった。
ハローワークはhello workではない。職安(employment bureau)の愛称である。
我々にとっては職安と云われたほうが馴染みがあるが・・・。
このハローワークにもいろいろある。今まで存じ上げなかったが「ヤングハローワーク」なんてものがあると言ったら失礼かも知れぬが、就職経験が無かったり、ノンキャリアである若年層向けの就職支援施設のことを指し、大概の職案内に設置されているという。

名称も地域によって違うらしい。某都内「ヤングハローワーク」は『ヤングワークプラザ・・』と呼ばれている。利用資格者は≪35歳以下の学生でない方≫≪過去1年以上雇用保険被保険者でない方≫≪正社員希望者≫とある。
「ヤング・・」のほか「キャリアハローワーク」、さらには最近「マザーズハローワーク」まで新設された。
それだけ無業者が多いということだ。
2003年暮れに村上龍氏が著した『13歳のハローワーク』。「“いい学校を出て、いい会社に入れば安心”という時代は終わりました。好きで好きでしょうがないことを職業として考えてみませんか?」なるキャプションのもと、“いろいろな「好き」を入り口に514種の職業を紹介”と銘打って大きな反響を呼んだ。賛否両論もあったものの、当時のベストセラーの1つとなり、今なおロングセラーを続けているようだ。

A4版450頁に及ぶ同書だが、副題の英語は“Job Guidance for the 13-year-olds and all triers”。村上さんの≪まえがき≫には考えさせられるものがある----
「子どもは誰でも好奇心を持っています。好奇心は、大人になって一人で生きてゆくためのスキル(専門的な技術)や、そのための訓練をする上でで、非常に重要になります。大人は、子どもの好奇心を摘まないようにして、さまざなものを選択肢として子どもに示すだけでいいと思います。簡単ではありませんが、大人に好奇心があって、好奇心をもって生きることがどんなに楽しいことかを子どもに示すことができれば、子どもは自然と好奇心の対象を探すようになります。子どもが、好きな学問やスポーツや技術や職業などをできるだけ早い時期に選ぶことができれば、その子どもにはアドバンテージ(有利性)が生まれます」
「・・今の日本は不況です。どうして不況になったのでしょうか。日本経済がダメになったのでしょうか。それは違います。高度成長が終わって、日本社会は大きく変化しました。また冷戦後世界も大きく変わりました。しかし今でも、日本のほとんどのシステムは、高度成長期のままです。つまり内外の変化に対応できていないのです。変化に対応できていないのは、システムだけではありせん。人びとの考え方・意識も、どこかで高度成長期を引きずっています。それは日本人と日本社会にとって強烈な体験で、しかも成功体験なので、その考え方・意識を変えるのは思っているほど簡単ではないのです」
「『13歳のハローワーク』といタイトルにしたのは、13歳という年齢が大人の世界の入り口にいるからです。ちなみにアメリカでは12歳まで子どもとしてケアされますが、13歳になると逆にベビーシッターなどのアルバイトを始めるようになります。・・・」
そして同氏は「13歳は自由と可能性を持っています。だからどうしても世界が巨大に映ってしまって、不安ととまどいを覚えるのです。わたしは、仕事・職業こそが、現実という巨大な世界の『入り口』なのだと思います。わたしたちは、自分の仕事・職業を通して、世界を見たり、感じたり、考えたり、対処したりすることができるようになるのです。自分の仕事・職業によって世界と接しているということです」と結んでいる。
初版六年以上前の大著?だ。2006年でlost decade(失われた10年)は終焉したと云われたが、村上さんの指摘する“今の日本は不況です”は変わらない。でも、“13歳という年齢(中一から中二の時期)が大人の世界の入り口にいる”という見方は、現実的にはいささか酷だろう。
中高生、特に高校生の精神年齢と社会に対する好奇心についていえば、その格差は驚くべきものがある。高卒を前にして大きな壁にぶつかり、身動きがとれない18歳の若者が少なくない。
「誰も大人と認めてくれないが、子どものままでもいられない。そうした時期に差しかかり前を見たとき、見えてくるものはどれもまだ手に余るものだった」--乙川優二郎【吉治次】のなかの台詞だ。いまの10代後半の者たちの心境はズバリいってこんなところではないか。
今の子どもたち、若者たちは“気の合う者同士でなごんでいたい”タイプの者が少なくない。かれらの世界は閉鎖的だ。外界、未知の世界、闇の世界を覗こうとしない。むしろ大人や親たちなど年配者自らが好奇心を失わない姿を子どもたちに示すことこそ大切だと思う。「齢をとると、変化する世の中にだんだん歩調をあわせにくくなるという現象が出て来るだろう。しかしそうなっても、・・・世の中に対する好奇心とか新しいものを受け入られる気持のやわらかさとかは失いたくないものだ」(藤沢周平)

いま我が家で躾に悪戦苦闘している柴犬の好奇心には驚嘆する。生後4ヶ月足らずのおテンバだ。明日医者で三回目のワクチン注射と検診が控えているのを知ってか、知らずか本日はいささか興奮気味だ。