窮地における優れたリーダーとは・・

国も社会も組織も優れたリーダーが求められている。
真のリーダーシップは平時のときより窮地や危機的状況に陥ったときに発揮されるものだ。
20年余深い縁の中等学校が海外にある。生徒数2500名を超える大規模校だが、90年5月、校舎が大火災に見舞われ、10教室と管理棟が焼失した。
学校は休校、教職員・生徒・保護者一体となって、焼跡の片づけに奮闘し、一週間後授業にこぎつけた。
朝、校長はグランドに全校生徒を集めて宣言した---
“We are down but not out”---災禍に遭遇した時の見事な名言だ。ボクシングに喩え、“倒されたが斃れない”“ノックダウン・パンチを喰らったが、ノックアウトされない(立ち上がろう)”
ボクの盟友であり名校長とし知られていた同校のリーダーならではの第一声。スタッフや生徒たちを鼓舞し勇気づけるこれ以上の言葉は容易に見つからない。(我が敬愛するこの名校長だが、1999年50代半ばで急逝した。今もって惜しまれる知友だった)
三日前の夜、我が組織・機関が思わぬ災禍に遭遇しかねない危機的状況に陥ったとき、ボクは独り目を閉じ、“We are down but not out”と呟き、後は祈るだけだった。

幸い危機を脱してふと考えた。良きリーダーとはいかにあるべきか。リーダーシップとは何か。数々のリーダー論がある。
リーダーは所詮孤独だ。リーダーたるべき必須要件の1つは孤独力であり孤独ななかでの決断力だろう。
模様眺めや評論家、後知恵型はダメ。いま流行の“草食系”、妙に淡々としていて、あまり自己主張をしないタイプは資格なし。

先見性ががあるか。具体的な目標設定ができるか。カリスマ性に通じる動員力も大切だが、“寡黙なリーダー”も存在する。寡黙だからといって“むっつり右門”ではない。たまに発する一言が効く。臨機応変の≪殺し文句≫、つまり≪決めのセリフ≫を出せる人は他者をfascinateする(魅了する。惹きつける)力を持っている。“押しつけずに惹きつける”言葉力である。
そして“リスクを引き受ける責任力”も試されよう。

先年逝った金大中元韓国大統領が姜尚中氏の対談の中で次のようにリーダー論に言及している---
「いま、政治家として、リーダーとして成功するためには国民よりも『半歩前』に行くことがポイントではないかと私は思っているのです。2歩3歩も先を行ったら、国民と握っている手が離れて、彼らはついてこられません。・・・・・・だから、リーダは国民と一方では手を握りながら、その手を離さないで半歩前に行く。もし国民がついてこないようなら、ちょっと立ち止まって、手を離さない説得をする。そして国民の声を聞く。そして意見を合わせる。そのようなやり方が、いま、成功する秘訣ではないかと思います」リーダーシップとはなんたるかを模索する上で実に示唆に富むコメントだ。