また文庫本が新創刊--多種化と値段差にビックリ

静山社というボクにとってあまり聞きなれない版元がある。売りに売れている『ハリー・ポッター』の出版で名をはせた社らしいが、あらたな収益の柱をつくるべく、このほど「静山社文庫」を創刊。年間60点を刊行、合計100万部の売り上げを目ざすという。大変威勢のいい話だが、文庫本の現状は“店頭は飽和状態”だ。昨年出版された文庫本の新刊は7809点、点数は前年比500点増だが、販売総額、総販売部数とも2年連続マイナス。多品化、少部数化が年々進み、返品率も上昇しているという。
こうした逆風のなかでスタートする静山社文庫、編集局長は「夢やロマン、真実といった言葉をキーワードに、世の中に求められるものを出していきたい」と意気込んでいる。
一番の老舗の文庫本は「岩波文庫」。昭和2年7月に創刊された、発刊に際し、社主岩波茂雄は次のように“読書子に寄す”を記している----
「真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む。かつては民を愚昧ならしめるために学芸が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった。今や知識と美とを特権階級の独占により奪い返すことはつねに進取的なる民衆の切実なる要求である。岩波文庫はこの要求に応じそれに励まされて生まれた。・・・」
岩波のほか、ボクの周りにざっと10種以上の文庫本が散らばっている。
角川、新潮、中公、講談社、文春、ちくま、河出、朝日、小学館、光文社など、400頁以上の長編モノでも千円札で充分お釣りが来る。

が、岩波も2000年発刊の「現代文庫」となると400頁モノで1200円と値が張る。
岩波現代文庫は、戦後日本人の知的自叙伝ともいうべき書物群であり、現状に甘んじることなく困難な事態に正対して、持続的に思考し、未来を拓こうとする同時代の糧となるであろう」--創刊に際しての編集人の志である。
ところで、講談社の文庫本だが、1976年発刊の学術文庫、ほぼ1000頁に及ぶ『中国古典名言事典』(諸橋轍次)が1800円は妥当だろうが、仰天するのは同じ講談社の「文芸文庫」のお値段。今年創刊22年で後発だ。

編集人は「近現代文学の名作、詩歌、評論、随筆等、歴史の風雪に耐え得る良書の刊行を目指し、長年出版を続けてまいりました」と謳いあげているが、表紙の装丁は美麗とはいえ、売れ行きの方はどうか・・? と云いながらも、ボクもなぜか結構この文庫を買っている。400頁モノで1500円、単行本顔負けだが、所収の作家と作品のどこかに惹かれるものがあるようだ。