佳き読書案内人に誘われて-(続)加藤周一の言葉

「ひいきの読書案内人を持つ人はすぐれた読者だ」と言う。ボクはその域までとても到達していないが、読者を本屋に走らせてくれるような書評に出逢うと嬉しいものだ。

昨春刊行出版された加藤周一氏の最期の書だと思われる『日本文化における時間と空間』(2007年3月初版:岩波書店)が送られてきた。
昨日も触れたが、「今=ここ」に生きる日本、その本質を衝く渾身の書き下ろしだ。
≪はじめ≫の部分に惹きつけられた。
「日本の諺言に『過去は水に流す』という。過ぎ去った争いは早く忘れ、過ちはいつまでも追及しない。その方が個人の、または集団の、今日の活動に有利である、という意味である。しかしその事の他面は、個人も集団も過去の行為の責任をとる必要がない、ということをを意味する。・・・
未来については、『明日は明日の風が吹く』という。おそらくその意味にも二面がある。未来の状況は予測することができないから、明日の心配をするより今日の状況に注意を向けよう、というのが一面である。風向きはどう変わるかわからないが、風向き次第で態度を決めよう、というのが、おそらくもう一面である。現在の強調と、状況に対する適応能力とが、そこでは示唆されている。・・」

今春定年定職した我輩は、「過去は水に流す」こと無理なようだが、「明日は明日の風が吹く」(Tomorrow is another day)と考える傾向がある。これを悪い意味の楽観主義というべきか。その日暮らしというべきか・・・。