メディア・リテラシーを考える-TVは政治の実相を伝えない

安江良介さん(岩波書店元社長/『世界』元編集長)が他界されてもう10年になる。信頼できるジャーナリストとしてその早世を惜しんだものだ。
先週末内閣改造もあり、連日TVはトップニュースで政治問題を取り上げ、新顔大臣や現政権の目玉になる?大物幹部を次々と登場させた。
安江氏は世紀末の1996年、遺書とも言うべきエッセイ集『同時代を見る眼』(岩波書店)のなかで≪テレビ・ニュースの欠陥≫について触れている。
「新聞は、政治・経済・文化・スポーツ・家庭・芸能・社会の各面にさっと目を走らせながら、読みたいと思う自分なりの順序でニュースとその裏を読むことができる。そうした読者の選択性と自主性、紙面の総覧性、記事の濃淡によって、新聞の提供するニュースは本来的にダイナミックである。テレビ・ニュースにはそうしたものがない。致命的な欠陥である」
例えば、政治について、現衆議院議長が語っている。
『テレビで政治そのものを映すのは非常に難しい。テレビに映るのは政治なのか、政界の動きなのかという問題はある』
安江氏はさらに続ける。
「しかも、人々は、テレビに映ったものだけが事実であるとあると錯覚し、テレビに引きずられている。ドイツのヴァイツゼッカー前大統領は、米国の大統領がテレビ・コンテストによって選ばれる現状について、『アメリカでの経験が示しているのは、大統領であるための特質と、大統領になるための特質とは全く異なるということです』ときびしく指摘している」
安江氏は新聞報道によってニュースの裏側を読むことができると言っているが、そのためには相当なメディア・リテラシーが求められる。また、最近の新聞の提供するニュースだが、ダイナミックだといえるかどうか大いに疑問だ。ともあれ迫り来る米大統領選、民主・共和両陣営ともTVはもとにより、メディアを抜きに戦えないはずだ。Barack ObamaとJohn McCainのいずれが“大統領たるべき素質”を有しているか。これを見抜く力は選挙民のメディア・リテラシーに拠るところ大であろう。

同時代を見る眼

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