「壁」をつくる

3000本安打を達成したイチローのコメントの中で最も共鳴したのは「また次の壁をつくる」という言葉。自分の新たな壁をつくってそれを突き抜けようという意味だ。
自分にとって少し困難な課題を設定して、それを達成しようとする普段の習慣はそうたやすく身につくものではない。まして実践するのは容易ではない。「壁をつくる」こと。これがイチローの哲学でありキャッチフレーズではないだろうか。
組織や国とて同じだ。米下院が奴隷制に対し謝罪した。過去において米国が行ってきた奴隷制と黒人への人種差別政策について「不正義で野蛮で非人道的行為」だったとして、初めて公式に謝罪決議したという。米国にとって奴隷制負の遺産だが、議会がその非を認め、謝罪するには厚い壁があったはずだ。
国保守党も壁を突き破った。かつて新自由主義を主導した英国野党第一党の保守党が、格差解消のキャンペーンに乗り出した。80年代サッチャー政権が欧州でいち早く市場万能主義を導入し格差を拡大してきた保守党がギアチェンジ。まさに厚い壁への挑戦である。
我が国政府はどうか。直面する壁、政策課題への果敢な挑戦どころではない。行き詰まり迷走中。模様替えをするかしないのか。

貿易のいっそうの自由化をすすめようとするWTO(世界貿易機関)の交渉が決裂した。米国の自由化要求を中国・インドなどの発展途上国が拒んだ。先のG8における排出ガス削減問題と図式は似ている。米国主導の先進国の施策が次々と発展途上国新興国の抵抗に合い拒否される。世界唯一のSuper Powerと称されて久しい米国と追随する日本などAdvanced CountriesにとってDeveloping Countriesの壁は厚い。いまや中印などは、Rising Nations(躍進する国)だからだ。