チョビ髭ー笑いを武器に

1989年4月16日、ロンドンの貧民街で生まれたCharlie Chaplin、同じ年の4日後、オーストリアで生まれたAdolf Hitler。20世紀において最も愛され、最も憎まれた両人、あのチョビ髭も偶然だったようだ。映画というメデイアを統治システムの基礎のおいたナチスは、Chaplinを集中攻撃し排除する。その理由の1つがチャップリンの「髭」である。チャップリンヒトラーの闘いには緒戦がある。喜劇王が独裁者をモチーフに映画を作ろうとしたのは、ヒトラーをモデルにした『独裁者』が初めてではなかったようだ。それ以前に、ヨーロッパを支配下においた<独裁者>ナポレオンの映画化を試みている。その中のチャップリンの台本草稿を読むと、対話というより演説のような印象を受ける。ナポレオンの口を借りたチャップリンの政治観が表れており、チャップリンが政治のおいても先見の明を持っていたことがわかる。
「戦争の気配がふたたび漂いだした。ナチスが徐々に伸びてきた。それにしても、第一次大戦のあと死の苦しみの4年間を、なんと早く忘れたものか」ーチャップリンは『独裁者』を製作する前の世相をこのように回想している。ヒトラーと浮浪者チャーリーとが同じチョビ髭をはやしている点に目をつけたUnited Artistsの映画プロデューサーから「ヒトラーの話を映画にしてみないか」と提案されたチャップリンにアイディアがひらめいたー「これだ! ヒトラーに扮した私が、大衆相手にワケのわからぬ長広舌をふるって思う存分に喋りまくる。そして浮浪者の私は、多かれ少なかれ、サイレントでいられる。ヒトラー・テーマは、風刺とパントマイムを両立させる絶好のチャンスだ」