難解だが凄い『・・・・サーカス』

5年ほど前だと思うが、東西冷戦時代の東独、監視社会の実像を描いた“The Lives of Others”(原題:Das Leben der Anderen)を飯田橋ギンレイで観た。アカデミー賞外国語映画賞など多くの賞を受賞したドイツ映画だ。

邦題は『善き人のためのソナタ』。ピアノソナタが東独秘密警察のエージェントの心を激しく揺さぶり人間性を目覚めさせる--この大詰め部分に焦点を絞った邦題となっている。原題の直訳「他人の生活」では味も素っ気もない。
ギンレイには筋金入りの映画ファンが通う。多くはこの名画座の会員だが、ボクの隣に坐っていた初老のご婦人が「([善き人のため・・]は)何回観ても飽きません」「観るたびに味わいが深い」と言っていたが、今になってなるほどと思う。中古のDVDを注文した。

5/2のM紙夕刊で英国ファッションデザイナーPaul Smith氏がcreative consultantを務めた映画『裏切りのサーカス』の公開を知った。都内での上映館は現在、新宿武蔵野館と日比谷のTOHOシネマシャンテのわずか二館だ。珍しく封切り初日以来ほぼ満員、立ち見が出るほどの盛況らしい。

今朝、TOHOシネマに慌てて電話で問い合わせたところ案の定、15時台は残り数枚で指定席売り切れのとのこと。止む無くネットで買って雨のなか日比谷の街角に駆けつけた。シネマシャンテに入るのは初めて。場所を見つけるのに手間取り、本編上映開始ギリギリに最前列に坐った。2時間以上の長尺で難解極まるスパイ映画だ。首が痛くなった。

原題は“TINKER TAILOR SOLDIER SPY”. それがなぜ「裏切りのサーカス」なのか? 70年代のロンドンの雰囲気やスパイの世界を描く。英国情報部本部がロンドンのケンブリッジ・サーカスがあるところからサーカスと呼ばれる。“裏切り”とは・・二重スパイのことだ。原作者John le Carreが製作総指揮の<灰色っぽい色>を基調とした“混乱させられる2時間”だった。主役を演じたGary Oldmanはじめ諜報部員は恐ろしく寡黙で無表情だ。「劇中で繰り広げられる高度な頭脳戦同様、我々も頭脳を駆使してこの映画に立ち向かわねばならない」(映画評論家K氏)
近年になく超難解で息詰まる映画に出遭ったものだ。観終わって、いつものように解説パンフを買った。

The enemy is within(敵は身内にいる) Trust no one. Suspect everyone(誰も信用するな。全員を疑え)-- 諜報部員の鉄則か・・。
表紙裏の見開きに曰く≪映画をより楽しむために、ご鑑賞前にこの頁をお読みになることをお勧めします≫
2番封切館でもう一度じっくり観ることにする。