邦画の行方・行く末

去年も何本か良質の邦画を観に封切館やシネコンに出かけたが、客の入りの悪さは大相撲の比ではない。席が半分埋まっていればマシな方で、ほとんどが閑古鳥が啼くありさまだ。マトモな映画ファンに通用しそうな作品なのに客入りが悪い。土日でも大学生や高校生の姿はまず見られない。もちろん子供客はゼロだ。


日本映画製作者連盟がこのほど発表した去年1年の映画興行収入は、対前年比82.1%に落ち込んだ。入場者も大幅減、映画館は73館減って18年振りに減少に転じたという。
背景に3/11大震災、原発事故の影響があろう。“映画どころじゃない”というムードの広がり、心の余裕の無さ、先行き不安が映画離れにつながったと思われるが、どうもそれだけではなさそうだ。

メディアの大げさ宣伝が市民感情を逆撫でしたのではなかろうか。興行収入の上位の作品のほとんどが、派手なアクションものにアニメ、漫画原作モノ、TVドラマの焼き直し。子供向けの稚拙な作品ばかりだ。

映画劇場のデジタル化が加速化したため、その負担に耐えられない独立系配給会社や名画座、ミニシアターは経営が立ち行かない。そこへきて、世界最大の映画用フィルム製造会社、イーストマン・コダックの破綻。フィルム現像所も経営危機にある。


洋画の興行収入のTop 2は「ハリー・ポッター・・」と「パイレーツ・オブ・カリビアン・・」、邦画の興収の2倍を上げているが、大人向けの秀作とはほど遠い。


一方TVドラマや映画はどうだろう。42年間続いてきた時代劇『水戸黄門』が昨秋終了したが、おかげでスタッフは自動的に解雇。最低限のセーフティネットすら存在しない。これでは日本映画の制作力は脆弱になるばかりだ。

映画製作に対する公的支援が最も問題だ。西欧に比べて国からの助成がお粗末過ぎる。大衆文化や芸術の重要性を評価・理解し振興しようとする基本施策がみられない。
その典型があのクロサワに対する扱いだ。1951年ベネツィア国際映画祭グランプリを受賞した『羅生門』だが、配給会社の大映が国内で封切りしたのがその後年だというから驚き。大映の社長が『羅生門』を観ても理解できなかったらしい。



むずかしい映画は大衆ウケしないから儲からない。儲からない映画はダメという論理だ。『羅生門』を大映ベネツィアに出品するわけがない。イタリアの映画関係者が個人で資金を出して映画祭に出品。当のクロサワすら知らなかったという。
[
71年クロサワの自殺未遂事件があった。海外で高い評価を受けても国内で思うように映画が撮れない。映画会社が資金を出さない。止む無く自宅を抵当に入れてまでして映画を撮っていたが、『どですかでん』の資金繰りに行き詰まって自殺未遂と相成った。

その後の作品だが、『デルス・ウザーラ』はソ連が資金供出、『影武者』はスピルバーグや米映画監督が資金援助、『乱』はフランスが資金を出して日仏合作映画。日本の文化庁は助成しないというから呆れ果てたものだ。

そのクロサワに死後「国民栄誉賞」が贈呈された。

これには世界のメディアが黙っていない。「日本では生前にクロサワをまともに評価できなかった」--The NY TimesとLe Mondeが痛烈な批判論調を展開した。
邦画の行く末が心配だ。