女優哀詞

NHKBSプレミアムが明日から4夜連続で『邦画を彩った女優たち シーズン2』。4人の女優を取り上げる。
そのうち今は亡き女優が2人登場。大原麗子太地喜和子。共に惜しまれて早世した。
なかでも太地喜和子の死は演劇界や映画界に衝撃を与えた。ポスト杉村春子の呼び声高かった人気、実力を兼ね備えた大型女優だっただけに文学座の打撃は計り知れず、事故死から20年近く経った今なお彼女亡きあとの大きな穴を埋める女優は現われない。

ボクにとって喜和子さんは縁浅からぬ女優だったと勝手ながら自認している。




86年10月英国の劇作家Tom Stoppardの“The Real Thing”を文学座が本邦初演。演出はLeon Rubin。英国側は日本の代表的役者が演じることを条件に文学座に独占上演権を付与、その契約書の翻訳に縁あってボクが携わった。主役のHenryを江守さんが相方のAnneを喜和子さんが演じた。

それから6年後の92年8月三越劇場戌井市郎演出『唐人お吉ものがたり』を観た。これが太地喜和子の見納めになろうとは・・・。その年の10月伊豆方面での地方公演中、下田のお吉の墓前に赴くことなく深夜伊東の海に車もろとも沈み還らぬ人となった。48歳。円熟絶頂期にある大輪の華が散った。杉村さんより先立つとは非情で哀れというほかなかった。
『唐人お吉・・』のパンフレットに<たとえば牡丹の花のように--太地喜和子の魅力>と題して演劇評論家M.H氏が語っている---
太地喜和子は、俳優座養成所の最後の卒養成だが、どの劇団をめざそうかと迷っているとき、文学座の『欲望という名の電車』を見て、杉村春子の演技に魅せられた。自分の入る劇団はここしかないと思い定め、その願いが叶って文学座の研究生になったのは、ちょうど創立30周年の年だった。それからもう25年になる。・・・・・」
「・・・華やかな色気を出せる女優だから、帝国劇場で秋元松代近松心中物語』の梅川を演じて成功したあと、大劇場への出演が多くなったのは当然ろう。昨年は文学座の芝居は一本もなかったが・・・・それにしても、太地喜和子は、文学座の芝居に年に一度は出るべきだろう」

M紙T記者は「虚構と世界のあわいを生きた太地。死の直前まで演じていたのは『唐人お吉ものがたり』。あわいを歩いていたはずが、この役への入れ込みは尋常ではなっかたという。最後は、酒におぼれ、水死したお吉と同じ運命をたどった。生々しい生と性に満ちた女性だった」と記している。
まさに<女人哀詞>であり<女優哀詞>である。