“時代モノ”が消えてゆく

小学校の頃からボクは映画好きだった。アラカンとひばりちゃんの『鞍馬天狗』は全部観た。堺駿二川田晴久が脇を固めていた。

手に汗握って正義のヒーロー『黄金バット』に魅入った。これにもひばりちゃんが出ていた。ヤマカジさんが撮った『むっつり右門』のアラカンのシブさがよかった。『月形半平太』の「春雨じゃ濡れて行こう」の名調子は忘れられない。



洋画も歴史モノ、時代モノの名画を多く観た。最も印象深かったのは“For Whom the Bell Tolls”(誰がために鐘は鳴る)と“High Noon”(真昼の決闘)だ。主演は両画ともGary Cooper、相手は前者がIngrid Bergman、後者はGrace Kelly。スペイン戦争を描いた“For Whom... ”のマリア役に原作者のErnest Hemingway自らがBergmanを指名したという。“High Noon”のG. Cooperの背中姿が何ともいえなかった。Fred Zinnemann監督は田舎町の保安官を無敵のヒーローではなく普通の人間として描いた。商業主義映画に抵抗した筋金入りの名匠だった。




米映画協会(AFI)選定の「最も偉大な女優50人」中第4位にランクされているBergmanの名言--「富と名声に、成功を見出したことはない。私にとっての成功は、才能と情熱のなかにある」「私の後悔することは、やらなっかたことであり、できなかったことではない」--見事な誇り高き名優。67歳の他界は惜しまれる。G.Cooperも芸達者とは言えなかったが一時代を画した名優だ。


Grace Kellyは女優活動はわずか7年。27歳で引退、53歳で非業の最期を遂げたが、その美貌は異質ながらも“Gone With The Wind”のVivien Leighに負けず劣らずだ。

往時の映画ファンの懐旧だと笑われるかもしれないが、仏伊のヌーベルバーグに夢中になった時代もある。60年代後半〜70年代前半、アンチ・ハリウッドに飛びついた。“Bonnie and Clyde”(俺達に明日はない)のFaye Dunaway、“Butch Cassidy and the Sundance Kid ”(明日に向かって撃て)のPaul NewmanとRobert Redford。キラ星の如く名画、名優が顔を出す。


注目すべきはこれら名作がすべて歴史モノである点だ。世界のクロサワも歴史モノ、時代モノに名画が多い。

最近、劇場映画もTVの帯ドラマも、NHKの“大河”をのぞき、時代モノがめっきり減った。この間も周平さんの武家モノを銀座で観たが入りは2割程度だった。
TVでは40年以上の長寿ドラマ『水戸黄門』が幕を閉じる。勧善懲悪の典型、プライムタイムに放映されなかった。東野英次郎さんを初代に里見孝太郎さんまで6人の副将軍がお茶の間に顔を出した。

地上波の完全デジタル化に併せ「テレビ新時代」が謳歌されている。時代劇は若者向けの娯楽モノと韓国時代劇にお任せか?「歴史とは現代と過去の対話である」と云われる。
時代モノは過去を検証するための有力な手立てだ。歴史認識を育てる大衆文化としての大人向けの時代映画とTVドラマの復活は無理か?