笑いをつくるのが一番人間らしい仕事

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」--昨年4月逝ってしまった井上ひさしさんの余りにも有名な座右の銘である。


哲学的で絶妙で物書きやお喋りを商売にしている者にとっては極意と云うべき至言だがなかなかそうは行かないのが現状だ。
そこで井上さんの書き物をちょっと味わうことにした。
近頃の日本の「国際的孤立ぶり」について、「それほど(国連安保理の)常任理事国になりたいなら、国際社会に、とりわけアジア各国に、おみやげを用意しなければならない。それはオカネではなく、たぶん、『わたしたちは過去の過ちをきちんと記憶しています』という決意だろうと思います。そしてそれが外交の相互主義です」(講談社≪ふふふふ≫より)

井上さんの真骨頂と云えば“笑い”だろう。

「僕の芝居には必ずといっていいほどユーモアや笑いが入っています。それは、笑いは人間が作るしかないものだからです。.........笑いは共同作業です。落語やお笑いが変わらず人気があるのも、結局、人が外側で笑いを作って、みんなで分け合っているからなのです。その間だけは、つらさとか悲しみというのは消えてしまいます。苦しいとき誰かがダジャレを言うと、なんだか元気になれて、ピンチに陥った人たちが救われる場合もあります。笑いは、人間の関係性の中で作っていくもので、僕はそこに重きを置きたいのです。人間の出来る最大の仕事は、人が悲しい運命を忘れさせるような、その瞬間だけでも抵抗出来るようないい笑いをみんなで作り合っていくことだと思います。
人間が言葉を持っている限り、その言葉で笑いを作っていくのが、一番人間らしい仕事だと僕は思うのです」


大江さんもそうだが、井上ひさしさんは“僕”という言葉が似合う作家だった。井上さんの紡ぎだす笑いは上質だった。いま井上さんが存命ならば、3.11大震災で想像を絶する悲惨な状況にあり悲運に喘ぐ人々にどんな言葉をかけてくれるだろう。そういえば、井上さんも東北人だった。

同じ山形出身に藤沢周平さんがいる。名品『蝉しぐれ』をもとに井上さんが周平さんの≪海坂藩≫の鳥瞰図を描いている。