原風景は描けない

真夏日どころか酷暑の到来だ。39℃以上が全国で5ヶ所。埼玉は残酷だ。熊谷で39.8℃とrecord breaking。High Noonの街中、直射日光が当たる場所では45℃と云うから先が思いやられる。

一方で豪雨。上高地がやられた。東北地方が気になる。今度は被災地でなく秋田・山形がターゲットになった。鶴岡で山崩れがあった。

鶴岡と云えば藤沢周平さん、海坂藩だ。
周平さんの下級武士ものが久々に映画館にお目見えする。『小川の辺』。原作は文庫本「闇の穴」所収の35頁程度の短編だ。監督は『山桜』を撮ったS氏だが、周平作品の映画化は容易ではない。

あの名作『蝉しぐれ』の映画化は失敗作だと思う。山田洋次監督『たそがれ...』はさすがに名画に仕上げている。が、『山桜』も凡作だった。失敗作に共通するのは自然描写に対する意識過剰にある。原作者の描く風景はいかなるものだったのか。
周平さん自身『闇の穴』のあとがきで語っている。

「はっきり郷里の史実に材をとったというものではなく、つくりものの小説を書いているときにも、私はそのなかで郷里の風景を綴っていることがある。そして、それは必ずしも郷里の現実の風景というわけではなく、私の中にある原風景といったものであることが多いようだ」「...私の心の中に残る風景は、...私の古きよき時代を兼ねるかのようにもみえる」
夕刊A紙の広告特集「さあ!明日は映画館に行こう!」で2段ブチ抜きの『小川の辺』。≪藩命か。愛か。--家族の愛をを描いた、藤沢周平の最高傑作≫と各界から絶賛の声。7/2全国封切り。著名人お薦めの鳴り物入りのロード・ショーと相成るが、この目で観るまでわからないのが映画と云うものだ。


川が重要な舞台となっている『小川の辺』。周平さんの回想した原風景はセットでは撮れまい。現実の風景描写に流されないか? 結局、人物をどう描くかで作品の成否が決まると思う。