中国の学校教育は驚異か脅威か?

ピューリッツァ賞受賞の米ジャーナリストNicholas D. Kristof氏がThe NY Times紙に“China's Winning Schools?”と題するコラムを掲載。


孔子儒教教育が世界を制覇」と直言している。昨年12月の国際学力調査によれば、世界65ヶ国の若者の算数、理科、読解力はいずれをとっても上海がトップ。香港、韓国が後に続き、東洋の学問、儒教の影響を受けていない上位国は唯一Finlandだけいう結果が出た。Kristof氏自身、この20年間に中国をはじめアジア諸国を訪問、同氏の子供たちもしばらくのあいだ日本に滞在した。東京の保育園に通っていた2歳の子供が、Kristof氏の仕事の関係で帰国することになり、保育園を去らなければならなかったことは今なお忘れられないという。

Kristof氏は続ける--
中国をはじめ他のアジア諸国の教育面の発展・振興振りは、教育を国の最優先課題としているからだ。我々はこの点は見習うべきだ。世界トップは上海だが中国全土を表わすものではないことは確かだ。上海には中国最高水準の学校が集中しているからだ。とはいえ、かつての農村地方の惨憺たる学校の姿が目覚しく改善されていることも確かだ。

 ちょうど20年前になるが、地方の小学校では退学する児童が後を絶たなかった。標準語の中国語をロクに喋れず、方言しか使えない教師さえ時々見られたほどだ。

 この点こんにちの変貌振りには目をみはるものがある。社会主義国家では、不適格教師に対する解雇には慎重だ。中国の校長達は教師を首にすることなく、特別な訓練を義務化し、それでも改善が無理な教師は職種変更させる権限を有している。
 「質の悪い教師は体育教官に改造されるのが通例だ」と都市部の校長は述べている。中国では学校体育とスポーツ・ジムは眼中にない。
 皮肉なことに、自国の教育システムを自賛する中国人は少ない。むしろ不満を抱いている。自立心と創造性を今のシステムが殺しているからだという。彼らは、自立心を育成し刺戟があり退屈でないという理由で米国の教育システムを羨む。Christof自身、Xianにあるトップレベルの高校を訪れ、教師と生徒にインタビューしたところ物欲しげな答えが返ってきた。

アメリカの学校は部活動や芸術を、そして自立心を重んじている」「我々はもっと創造性を奨励すべきだ。アメリカの学校に学ぶべきだ」
 ある地方の友人は子供たちを米国留学させるつもりでいる。当地の学校では創造性を抹殺させられるからだという。またInternational Schoolに通わせたがっている友人もいる。「判で押したようなカリキュラム」から逃げ出したいからだ。
 Kristof氏の見方はこうだ--
「自国の教育批判も肯けるが、私はこの国の教育熱と制度改革志向には大いに感心する。詩人W.B.Yeatsは“Education is not filling a bucket lighting a fire”『教育はカラのバケツを満たすものではなく、火を燃やすためにある』と言っている。確かに、バケツに燃料があればかがりに点火するのも容易だ」




 中国の社会制度の絶大の強みは教育を重んじる儒教精神にあり、これが文化の根底にある。中国の教師は崇拝され、スポーツ万能生やクラスのお笑い人気者より、頭のいい子供が最も尊敬の的となる。
 Kristof氏は次のようにコラムを締め括っている--
「米国は、中国の国家戦略的チャレンジとして新ステレス戦闘機の開発などを警戒しているが、本当に警戒すべきは同国の教育制度の発展とその基礎づくりをなす教育の取り組みへの情熱である。我々は儒学者になるつもりはないが、我が国は創造性と独立精神を放棄することなく、教育問題を政策の優先順位の上位においてしかるべきだ」

「1957年、宇宙開発分野でソ連のSputnikに先を超された時と状況は同じだ。我々は21世紀版Sputnik開発実験に直面しているとみるべきだ」