日脚延びる陽の初春

好天が続くせいか、夕闇せまれど延びゆく日脚が眩しい。
巣鴨の地蔵通りも足の踏み場もないほどの混みようだ。百貨店も含めdiscountで商売繁盛? さほど不況感は感じられない。


久々に小三治師匠が上野鈴本の高座に登場。TVで拝聴したが、まさにプロフェショナル。その名人芸、特に“まくら”には唸らせられる。
演題『小言念仏』に入る前の“まくら”がいい。


小三治さん曰く「陰と云う冬の季節に陽というお正月がポツンと存在するのはいいものだ。・・寒い日の陰気な時に、お正月がない冬なんて・・。ただただおぞましいだけの冬・・」さすがに絶妙のイントロだ。
短日の冬。万太郎が詠んでいる。
  短日や俄かに落ちし波の音
お正月の初春、一茶の句が知られている。
  めでたさも中ぐらいなりおらが春
此の句に因んだ病床の子規の句がうら悲しい。
 めでたさも一茶位や雑煮餅
『病床六尺』の子規は起き上がって外を見ることができない。
 いくたびも雪の深さを尋ねけり
病床の俳人といえば石田波郷。昭和の俳壇に多大な影響を与えた波郷は56歳の若さで清瀬の病院で他界した。
 今生は病む生なりき鳥頭(とりかぶと)


手許に古本「石田波郷全集 第三巻」--『俳句Ⅲ』がある。その中の≪酒中花≫の後記に波郷自身「病のため果たせぬことはいろいろあったが、今はただこの小句集ができることをよろこびとしたい」と記している。この句集は波郷が自ら編んだ最後の家集となった。お正月の句もある。
 元日の日があたりをり土不踏
 春著の子群がり去りて仔犬をり
 元日のひとりごころの裾寒く
 武蔵野は尾長のこゑに初茜 

余命幾ばくない波郷の“ひとりごころ”。その心の軌跡はいかなるものだったろう。
日脚が延びたたはいえ、五時を過ぎれば夕闇は濃い。

柴のHannahとの帰り路、近所の満開の寒桜を撮ったが逆光で何の木か、何の花か解らぬ。正月三が日が過ぎた。それでも陽の景色が居残っている。