冷戦期の戦士よ哀れ

米上院が年内ぎりぎりのところで戦略核兵器削減条約(新START)を批准した。今年4月ロシア大統領とのあいだで調印したPresident Obamaにとってこの年内批准は必須課題だった。
Obama氏は昨年4月のPrague Speechで“the world without nuclear weapons=the nuclear free world”を目指すことを宣言し、世界に希望を与えた。その意味では、今回の新STARTの批准は、米ロに新たな核軍縮露を促し「核なき世界」への第一歩には違いない。
が、世界の核兵器の90%以上を保有する米ロ両国にとって核廃絶は口で言うほど生易しいことではない。その道程を想像すると気が遠くなるほどだ。
米国は東西冷戦期から今日に到るまで7万発の核兵器を製造している。

核兵器工場で働いてきた高齢の元労働者たちが集会を開き、星条旗を立て、フラッグを背中に巻いて直立不動、「私はアメリカ合衆国の国旗に忠誠を誓います」と宣言している。
Colorado州Denver郊外の老朽化した元核兵器工場The Rocky Flatsの解体工事に従事した人たちだ。それまで核兵器工場で知りえた情報については守秘義務を強いられていた。2009年Barack Obamaの指示により解体工事が始まった。それ以来守秘義務が解かれ、次々と実態が明るみに出てきた。

老朽化した工場の解体に伴い、放射能汚染を除去しなければならない。
解体に従事する労働者は3000人に上る。皮肉なことに工場解体後、彼らは失職。そのうえほとんどがガン発病の危機にある。

皮膚ガンにより鼻まで変形し、顔面は往時の見る影もない男性もいる。
親族16人がRocky Flats工場で働いていたfamilyもいる。うちすでに4人がガンで亡くなった。
自らもガンに蝕まれている元作業員Judyさん、「私のことなどもうどうでもいいんです。今現場で被爆している労働者たちとその未来の世代が気懸かりなのです」と涙をこらえる。
彼らは「冷戦を戦う戦士」と呼ばれ愛国心に燃えて核兵器を作っていた。毎日朝、家の玄関に星条旗を掲げる人たちには国を憎む気持はない。
放射能汚染物質が地下に埋められている広大なRocky Flatsは野生動物の保護地域となっているが人の立ち入りは禁止されている。


このほどRocky Flatsの周辺でフルトニウムが発見されたという。冷戦時代に国家に貢献した人たちはいま負の遺産を背負わされている。ガンで亡くなった人たちの遺体は献体・焼却され、遺骨が保管されている。その遺骨からもプルトニウムが見つかるありさまだ。
元作業員は老朽化した施設の解体が終われば失職。ガン再発の危機に曝され、国に労働保険医療を請求したが却下されてしまった。核兵器工場での労働により病気になったという証明を必要とされ、現在、高額医療費を払わざるを得ない状況に置かれている。

彼らは静かに行進する---Justice for Rocky Flaats Workers--国は核兵器工場労働者を見捨てないでほしいとの願いが込められている。

初の原爆実験が行なわれたNew Mexicoのアラモゴードは今や観光地になっている。Los Alamosでは老朽化した施設が解体されたものの、新施設で新たな核兵器が開発されているという。


核廃絶の道遠し」だ。