The Fog of War---戦場は五里霧中−

Vietnam Warの実相を記録した“Hearts and Minds”の主なStarring(登場人物)は12名だったが、<主演>と云えば、Daniel EllsbergとWilliam Westmorelandだろう。
最高時50万人以上に及ぶ米軍を率い、敵の打倒を目指す策敵撃滅(Search and Destroy)戦略を展開したW.Westmoreland司令官。戦局を打開できず犠牲者が増大するばかりだった。そのため名づけて“Waste More Men”(より多くの人員を浪費する人物)と揶揄される始末だった。
このドキュメンタリーに全く顔を出さなかったのがRobert McNamara国防長官である。


同氏が自らの人生と重ね合わせながら、Vietnam warを回顧するdocumentary filmがBS2で再映された。“The Fog of War”、邦題は「戦争の霧」として良いモノか・・?


≪戦闘の最中に兵士にとって、戦場の先は見通せない。五里霧中の状態にある≫。The Fog of Warは一種の戦争特異の性格に照らした作品名だといえる。
“Hearts and Minds”と同じく、2003年のThe Academy Award for Best Documentary Feature(アカデミー最優秀記録映画賞)を受賞しているが、サブタイトルがEleven Lessons from the Life of Robert S. McNamaraとある如く、映画全編がベトナム戦争当時の国防長官マクナマラ氏の一人語りで構成されている。監督はErrol Morris。インタビュー・ニュース映像・モノクロとカラー写真を織り交ぜた見事なテンポ、まるで独り芝居と見まがうほどの秀作だ。


McNamara氏は昨年天寿を全うした。享年93歳。自らが人生を振り返り、回顧・懺悔する同氏はIreland系だ。子供の頃からエリートコースを歩み、大学時代の専攻は統計学。第二次大戦には3年間統計学の専門家として参画。戦後、Ford社の守護神として社長に昇進した立志伝中の人物だ。軍人ではない初の文民国防長官である。同じくWASPでないIreland系の名門の出JFKに国防長官に抜擢されたMcNamara氏は米軍の文民統制を確立、ペンタゴン革命とさえ言われた。が、Vietnam Warに深く関わった同氏の戦略は失敗に終わっている。


McNamaraはJFKと同様、いち早く自らの失敗を認識し、撤退方向を打ち出すが、JFK暗殺により頓挫した。後任大統領R.Johnsonのもとでも国防長官を留任したものの、新大統領はベトナム戦争の継続を主張、McNamara氏の米軍撤退論は完全に無視され、その結果、国防長官を辞した。


The Fog of WarにはMcNamara氏の第二次大戦に関する指導者への批判が見られる。ほとんど壊滅状態にあった日本にさらにnuclear weaponsを投下する必要があっがたかとトルーマン大統領や戦略爆撃の専門家Curtis LeMay少将を非難。


もし米国が敗戦国となっていたら「私もそうだが戦争犯罪人として糾弾されても仕方がない」と語る。惨禍に見舞われた側の日本やベトナムから見ると、生き残った指導者の都合の良い言い訳ともいえるが、McNamaraの語る視点は「現代史」の参考資料にもなり得る。


特に、人生の隠喩ともいうべきEleven Lessons(11の教訓)の中には銘記すべきものがある。4例を記しておこう。
◆Be prepared to reexamine your reasoning(理由づけを再検証せよ)
 常に自らの行動の理由を再検証し、それが誤りとわかれば行動を改めるべ きだ。まさにベトナム戦争に対する反省からきている。
◆Belief and seeing are both often wrong(目に見えた事実が正しいとは 限らない)
 米軍の北爆のきっかけとなったトンキン湾事件。それは攻撃を受けたとし
 た米海軍の艦船からの偽情報によるものだった。
◆Never say never(“決して”とは決して言う勿れ)
 マスコミに対しては「答えたい質問だけ答えろ」−−この教訓は多くの政 治家に受け入れられているようだ。
◆In order to do good, you may have to engage an evil(人は善をなさ んとして悪をなす)
 これぞ、米国が懲りずにやり続けていることだ。